
もっと知りたい - 相続による整理と相続税 2025.02.19
親子共有名義の不動産は生前贈与するべき?メリット・デメリットや贈与税の計算例も解説
親子共有名義で不動産を所有している場合、生前贈与を行えば最終的に納める税金が低くなる場合があります。
しかし、親子共有名義の不動産の生前贈与はメリットだけではなく、デメリットやリスクも存在します。
そこで本記事では、生前贈与の概要からメリット・デメリット、親子共有名義の不動産を生前贈与する方法について解説します。
生前贈与とは
生前贈与とは、ある人が自分がまだ生きているうちに他の人に財産を譲ることです。亡くなった後に財産を引き継ぐ「相続」とは異なります。
一見、生前贈与と相続は単に財産の移動が生きている間か、亡くなった後かの違いだけと思われがちですが、実は生前贈与をおこなうことによって、亡くなった後の相続資産を減らすことができ、結果的に相続税の負担を少なくするなることが多いです。
ただし、生前贈与を受ける側も、一般的には贈与税を支払う義務が生じます。
それでも特定の税法上の条件を満たせば贈与税が免除されたり、少なくなったりするケースも存在します。
生前贈与と相続の違い
生前贈与と相続の違いは次の3点です。
- 税率
- 財産を移すタイミング
- 財産を移す相手を選べるかどうか
生前贈与は生きている間に誰かに財産を譲るので、相手を自由に選ぶことができます。一方で、相続は亡くなってから財産を引き継ぐので、たとえ遺言があったとしても、遺言どおりに相続を実現することができないことがあります。贈与する相手を選べることについては、後述します。
注目するべき点は、贈与税と相続税の税率です。結論から言うと、贈与税よりも相続税の方が税率は低くなります。
しかし、贈与税は年間非課税枠110万円があり、相続のように一気に財産を移すことはありません。贈与税と相続税の詳細については、下記を参考にしてください。
贈与税率
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
相続税率
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 10万円 |
5,000万円以下 | 20% | 30万円 |
1億円以下 | 30% | 90万円 |
2億円以下 | 40% | 190万円 |
3億円以下 | 45% | 265万円 |
6億円以下 | 50% | 415万円 |
6億円超 | 55% | 640万円 |
生前贈与のメリット
生前贈与のメリットは、主に以下2点となります。
贈与する相手を選べる
生前贈与であれば、贈与する相手を選べます。財産を生前に譲渡しておくと、遺産をどう分けるかで相続者同士が対立するリスクが低くなり、遺産問題を未然に防げます。
遺言があっても、納得いかない相続者による遺留分の減少を求める声が出る可能性があるため、遺言だけでは解決しきれない問題が多いです。
さらに、孫に事前に財産を譲っておくと、親から子、そして子から孫への財産の移動回数が減り、その結果として税金の負担を軽減できます。
相続税を減らせる
前述の例のように、生前贈与すると最終的に支払う税金の総額を減らせます。
税率は贈与税よりも相続税の方が低いので、一見すると相続で財産を譲渡した方が良いよう感じられることもあると思いますが、贈与税は年間非課税枠を活用してこつこつと贈与していくことで税金の支払いを抑えることができます。
生前贈与のデメリット
生前贈与のデメリットは、主に以下2点となります。
贈与税が課せられる場合もある
贈与税は年間110万円の非課税枠がありますが、それを超えると贈与税がかかってしまいます。
しかし、その贈与税を考慮しても一気に相続で財産を引き継ぐよりも税金は低く済みます。
また、毎年110万円を贈与することで非課税で財産を移動できますが、節税目的の贈与の実態がないような場合は贈与税がかかる可能性があるので注意が必要です。
不動産を贈与する場合は税金の負担が発生する
不動産を譲渡する際は当然ですが、名義も新たに変わります。そのため、不動産の名義の変更や、それに伴う税金の手続きが必要です。
名義変更の際には、法務局にて手続きをする必要があります。
不動産の名義変更に際して必要となる税金を登録免許税と呼び、この税金の額は不動産の固定資産税評価額の2%とされています。
さらに、新しい不動産の所有者として発生する税金が不動産取得税で、固定資産税評価額の3%〜4%となります。
参考:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」
参考:総務省「不動産取得税」
もし、贈与税の特例等を活用して税金を軽減できたとしても、これらの税金がそれなりの額になることもあるため、よく計算しておくことが大切です。
不動産の手続きや税金に関する疑問や不安がある場合は、専門家に相談を検討するのも良いでしょう。
親子共有名義の不動産を生前贈与する方法
親子共有名義の不動産を生前贈与を活用して贈与する場合は、下記2つのどちらかの方法を利用しましょう。それぞれの特徴と注意点を紹介します。
暦年贈与
年間で受け取った財産が110万円までなら贈与税はかからず、申告も要りません。これを「暦年課税」と言います。
例として、1,000万円を段階的に10年かけて渡す方法もあります。
ただし、契約書を作って同じ金額を定期的に贈る約束をしていると、税金が後から課せられる場合もあります。
ネット上には様々なアドバイスがあるものの、国税局が最終的にどう判断するかは一概には言えません。
この点から、不動産について毎年110万円ずつ贈る方法は、多少のリスクを伴います。不動産の贈与で「暦年課税」を活用する際は、専門家に相談をしましょう。
相続時精算課税
「相続時精算課税」という制度が、不動産の贈与に関する税制の中に存在します。
この制度は、年始時に60歳以上の親や祖父母が、その同じ日に20歳以上の子供や孫に財産を渡す際に利用できます。
この方法では、最大2,500万円までの贈与に税金が発生しません。
しかし、それを超える部分には一律20%の税金が課されることと、この制度を使用すると翌年から同じ受取人に対して別の課税方法を選べなくなる点には注意が必要です。
税額の算出は以下の式で行いますが、前年までの特別控除の使用状況によって、許容される金額の上限が変わります。
- 税額=(贈与される財産の金額 - 2,500万円)×20%
参考:国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」
相続に関連する総額が基本的な控除内で収まれば、税金は発生しないため、通常の課税よりも税金を減らせるケースもあるでしょう。
親子間で共有持分を生前贈与するときの贈与税の計算方法
親子間で共有持分を生前贈与する方法は、下記の2つのケースに分けられます。それぞれで、生前贈与を行った場合の贈与税の計算方法を解説します。
1度にすべてを贈与する
1度にすべてを贈与することで、共有持分を贈与するための手続きが1回で済むため手間がかからないのがメリットです。一方で、贈与額が大きくなるため贈与税が多くかかるのがデメリットです。
実際の贈与税を国税庁の「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」に従って計算してみましょう。たとえば、住宅の購入金額が3,000万円であり、Aさん(親)が2,000万円負担している場合を考えます。
Aさん(親)がBさん(子)に持分を1度にすべて生前贈与する場合の計算は、次の通りです。
- 2,000万円(贈与する財産)ー110万円(基礎控除)=1,890万円
そして、親子間の贈与であるため特例贈与財産用の税率が適用され、1,890万円に対して、贈与税の速算表に照らし合わせると、下記画像の「3,000万円以下」に該当します。
「税率45%・控除額265万円」が適用されるため、結果的に下記の贈与税額となります。
- 1,890万円×税率45%ー265万円=贈与税5,855,000円
1度にすべてを贈与する場合は、贈与税額が5,855,000円となります。次に少しずつ贈与するケースをみてみましょう。
少しずつ贈与する
少しずつ贈与するメリットは、贈与税を大幅に削減できる点にあります。一方で、何度も贈与の手続きを行う必要があるため、手間がかかるのがデメリットです。
同じ2,000万円を贈与するケースで、10回に分ける場合を考えてみましょう。1回あたりの贈与額は200万円となるため、計算式は次の通りです。
- 200万円(贈与する財産)ー110万円(基礎控除)=90万円
贈与税の速算表に照らし合わせると、下記画像の「200万円以下」に該当します。
「税率10%」が適用されるため、以下のような計算となります。
- 90万円×税率10%=贈与税9万円
贈与を合計10回行うため、合計で90万円の贈与税を納める必要があります。1度にすべてを贈与する場合と比べて、随分と贈与税が安くなったことがわかるでしょう。
生前贈与の注意点
最後に、生前贈与を活用する際の注意点を3つ紹介します。
定期贈与の場合は贈与税が発生する
前述した通り、定期的な計画的贈与の場合は年間非課税枠は関係なく、贈与税が発生する可能性があります。
定期贈与と見なされる例として、同じ日に同じ金額を贈与したり、契約書を交わしているケースがあります。
生前贈与加算の対象期間が3年から7年に変更
2023年の新しい税制により、生前に行われた贈与の加算を考慮する期間が、以前の3年から7年へと変わりました。しかし、単純に期間が伸びただけではありません。
参考:国税庁「令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」
3年以内の生前贈与は、以前のルール通り加算されます。しかし、4年以上前に行われた贈与については、各年の贈与金額から100万円を差し引いた額が加算されます。
例えば、毎年100万円を贈与している場合、3年以内の300万円は全額が考慮される一方、4年前から7年までの合計400万円については、100万円が減算されて300万円が加算の対象となります。
単独名義にするなら遺留分侵害額請求への対策は必須
複数の相続人がいる場面では、「遺留分の損害賠償請求」の問題を前もって考えなければいけません。
というのも、財産分与で相続人間のトラブルを避けるためです。例として長男には株、次男には土地、三男には貯金を等価に分配するような方法を考えましょう。
特定の不動産の名義を分散させたくない場合、他の財産を均等に分けることが策略となります。
共有の不動産を持つことは節税に役立ちますが、相続時に問題が生じるリスクも考慮しなければなりません。
不明確な部分や懸念がある場合、専門家にアドバイスを求めると良いでしょう。
まとめ
生前贈与は、相続とは違って「いつ」「誰に」「何を」譲るのかを決められるので、相続人の間のトラブルを未然に防げます。
しかし、贈与税は相続税よりも税金が高いので一気に譲ると、相続時よりも税金を支払わなければいけません。
したがって、段階的に贈与を行う方が多いです。ただし、定期贈与となると年間の非課税枠ないであっても、贈与税がかかるケースがあるので注意しましょう。
自身で手続きを行うと、思わぬミスやトラブルが発生する場合も多いので専門家に相談することをおすすめします。
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